旅行需要の減退がもたらす波紋
米国の貿易政策や経済の不透明感が、人々の国内外旅行の意欲に影響を与え始めている。観光経済の専門機関であるTourism Economicsによると、関税によるコスト増加や貿易戦争の影響、さらには政治的要因(ロシアによるウクライナ侵攻など)によって、2025年の米国における旅行支出は最大640億ドル減少する可能性があるという。
このような旅行需要の鈍化は、米国のホテル市場にも大きな影響を及ぼすと考えられている。Tourism Economicsは、貿易戦争の影響を考慮したシナリオにおいて、ホテルの客室需要が1.9%減少すると予測している。
旅行業界は経済の先行指標
旅行・観光業は、経済の先行指標としても知られている。景気が不安定になると、遠距離の旅行を控え、短距離の旅行に切り替える傾向がある。そのため、現在の旅行市場の変化は、今後の経済全体の動向を示唆する可能性が高い。
米国旅行協会(U.S. Travel Association)は、2025年の米国の旅行支出が3.9%増の1兆3500億ドルに達すると予測している。しかし、カナダをはじめとする国際旅行者が米国への旅行を控える兆候がすでに見られる。
カナダの市場調査会社Legerが実施した調査(3月14日~16日)では、回答者の51%が政治的緊張を理由に米国への旅行を控えると回答した。また、カナダ統計局によると、2024年2月のカナダ人旅行者による米国への自動車での往来は前年同月比で23%減少した。
米国旅行協会の試算によると、カナダ人旅行者が10%減少すると、200万件の訪問が失われ、21億ドルの旅行支出減少と1万4000人の雇用損失が発生する可能性がある。
ホテル市場の現状と見通し
パンデミック後の回復が遅れている米国のホテル業界にとって、旅行需要の低下はさらなる逆風となる。
商業用不動産のデータを提供するTrepp社によると、ホテル業界の商業不動産担保証券(CMBS)の延滞率は、2019年の約2%からパンデミック初期には26%に急上昇した。その後、2021年6月には20%以下に回復し、2024年2月時点では6.4%まで低下している。
ホテル市場の2025年のスタートはやや不安定で、2月のホテルの稼働率は59.1%、平均宿泊料金(ADR)は159.39ドル、1室当たりの収益(RevPAR)は94.24ドルとなっている。これは前年同月と比較して若干の増加を示しているものの、経済の先行き不透明感から楽観視できる状況ではない。
CoStarおよびTourism Economicsの予測では、2025年のホテル市場は緩やかな成長を見込んでおり、ADRは1.6%増、RevPARは1.8%増、稼働率は63.1%に上昇するとされている。しかし、これにはトランプ政権の政策変更による影響は含まれておらず、今後の見通しは不透明だ。
コスト上昇と人材不足という二重の課題
ホテル業界は、旅行需要の変動だけでなく、運営コストの上昇や人材不足という課題にも直面している。米国ホテル&ロッジング協会(AHLA)とAccentureの報告によると、2024年には、運営・維持管理、販売・マーケティング、IT関連の費用がそれぞれ約5%増加した。
不動産コンサルティング会社RCLCOのベン・マスラン氏は、ホスピタリティ業界は経済の変動と最も相関性が高い業種の一つであると指摘する。同社のCEOアダム・ダッカー氏も、「カナダからの訪問者数の減少や国際旅行の減少が、リアルタイムでデータに反映されている」と述べている。
今後の展望
現時点では、2025年の夏季旅行シーズンの予約動向を見極めることが重要とされている。特にニューヨークなどの都市でのホテル予約状況が、市場の先行指標となる可能性が高い。
ホテル業界は、引き続き経済や旅行需要の変動に敏感に対応する必要がある。特に、コスト上昇や人材不足の問題を解決しながら、価格競争力を維持する戦略が求められるだろう。
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