解雇されるより、居づらくなる?気づかぬうちに追い出される働き方に変化
私が働くハワイの職場でも、コロナ禍以降、働き方が大きく変わったと日々感じています。リモートワークやハイブリッド勤務が当たり前になった一方で、同僚の突然の退職や“雰囲気の悪化”に戸惑うこともありました。最近気になっているのが「クワイエット・ファイアリング(quiet firing)」という新しい概念です。
これは、従業員を直接解雇するのではなく、意図的に働きにくい環境をつくることで、自発的な退職に追い込む手法を指します。2025年の最新調査によると、この“静かな解雇”が全米の企業で急増しており、実際に半数以上の企業が実施しているとの結果が出ています。
今回は、この現象の実態と企業の本音、そして私たち働く側にとっての影響について、詳しく掘り下げてみたいと思います。
クワイエット・ファイアリングとは何か?
表面的には「解雇なし」でも、実態は厳しい環境に
「クワイエット・ファイアリング(quiet firing)」とは、企業が直接的に解雇を言い渡す代わりに、従業員に昇給の遅延や福利厚生の削減、在宅勤務の制限強化などを行い、働く意欲を奪っていく手法です。
2025年に実施されたResumeTemplatesの調査では、回答した1,128人のビジネスリーダーのうち、53%がこの手法を活用していると答えています。主な施策は以下の通りです:
- 昇給の遅延(47%)
- 出社日数の増加(42%)
- 福利厚生のカット(32%)
- マイクロマネジメント(34%)
- 職場の有害行動を放置(22%)
このような環境に置かれた従業員は、自ら「辞めざるを得ない」と感じて退職に至るケースが多いのです。
なぜ企業はこの手法を取るのか?
解雇による「悪印象」やコストを避ける狙い
企業がクワイエット・ファイアリングを選ぶ背景には、次のような事情があります。
- 業績悪化や売上減少(調査では50%が理由として回答)
- 関税の影響や貿易コストの増加(46%)
- 景気後退への懸念、賃金の高騰
従業員を正式にレイオフ(解雇)する場合、退職金の支払いやネガティブな報道リスクが発生します。そのため、静かに辞めてもらうほうがコストも印象も軽減できると考える経営層が増えているのが実情です。
効果はあるが、職場全体に悪影響も
社員のやる気と信頼を損ないかねない施策
調査によると、クワイエット・ファイアリングを導入した企業のうち、85%が「ある程度は効果があった」と回答しています。一方で、その副作用も見逃せません。
- 39%の企業が「士気が大きく低下した」と回答
- 46%が「少し下がった」と認識
この手法が進行すると、職場に残る社員も不安を感じ、モチベーションや生産性の低下につながります。さらに、企業イメージや今後の採用活動にも悪影響を及ぼすリスクが指摘されています。
キャリア戦略家のジュリア・トゥースエイカー氏も「長期的に見れば逆効果。社員の信頼やパフォーマンスを損なうだけでなく、採用にも悪影響が出る」と警鐘を鳴らしています。
離職の通知も“静か”に?リモート時代の新常識
30%が「直接面談ではない形」で解雇通告
また、クワイエット・ファイアリングとは別に、**リモートワーク時代ならではの「静かなレイオフ」**も広がっています。Zetyによる調査では、過去2年以内に解雇された1,000人以上の労働者のうち:
- 30%:対面での通告
- 29%:Eメール通知
- 28%:電話通知
もはや、面と向かっての通告は少数派。遠隔で働く時代、関係性も希薄化し、「人間らしい対話」が減ってきているのが現状です。
従業員としてどう向き合うか
「おかしい」と思ったら早めの対応と記録を
このような状況下では、私たち働く側も受け身ではいられません。「昇給が止まった」「明らかに仕事が回ってこない」「出社ばかり求められる」などの変化があったら、それが単なる方針変更なのか、意図的な退職誘導なのかを見極める必要があります。
- まずは上司や人事に直接確認する
- メールやメモなどで状況を記録する
- 必要に応じて労働局や弁護士へ相談
安心して働ける職場環境を守るには、自分自身の権利を知り、行動することが欠かせません。
まとめ:静かな解雇の時代をどう生きるか
「クワイエット・ファイアリング」は、2025年の労働環境において現実的な問題です。企業にとってはコストを抑える手段かもしれませんが、その裏で働く人々の尊厳や信頼が損なわれているのは明らかです。
私たち一人ひとりが、職場の空気の変化に敏感になり、必要なときには声を上げる勇気を持つこと。それが、よりよい働き方と職場文化をつくっていく第一歩なのかもしれません。
参考情報
- ResumeTemplates「Quiet firing becomes a popular way for companies to cut staff without layoffs」(2025年6月)
- Zety「Remote layoffs and workplace notification trends」(2025年)
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