【アメリカ】住宅危機の分かれ道:税制優遇の拡充とHUD予算削減の行方

住宅の「未来」が揺れる今、私たちは何を注視すべきか

ハワイで生活していると、住宅費の高さは切実な問題です。私自身も家賃や住宅ローンの支払いについて日々考えることが多く、「アフォーダブル住宅(手の届く価格の住宅)」という言葉が気にならない日はありません。そんな中、連邦予算案に関する最新の報道で、アメリカの住宅政策が大きな岐路に立たされていることを知りました。

一方では、低所得者向け住宅税額控除(LIHTC)の拡充というポジティブな提案が出されています。これは、開発業者に対してインセンティブを与え、低価格帯住宅の建設を促進する仕組みで、実際に多くの住宅がこの制度によって建てられてきました。

しかし、その裏でトランプ前大統領が提案した住宅都市開発省(HUD)の大幅削減案が、業界に深刻な懸念を与えています。特に、セクション8バウチャー(家賃補助)や高齢者・障がい者向けの住宅支援の大部分を削除するという内容には、多くの専門家が危機感を抱いています。

私も、テクノロジーの力で社会課題を解決するという立場に身を置く者として、この問題を「一部の人だけの問題」とは決して思えません。





LIHTC拡充:住宅建設を加速させる希望の制度

まず注目すべきは、LIHTC(Low-Income Housing Tax Credit:低所得者向け住宅税額控除)制度の拡充提案です。これは1980年代から続く制度で、開発業者が家賃制限のある住宅を一定数建設する代わりに税額控除を受けられる仕組みです。

今回の予算案に含まれる主な改正点は以下のとおりです:

  • 9%クレジット枠の12.5%増枠を2026〜2029年にかけて復活
  • 民間活動債(PAB)の50%ルールを25%へ緩和
  • 地方・先住民コミュニティの住宅建設に対して30%のボーナス控除(Basis Boost)

これらの変更が実現すれば、Novogradac社によると2026年から2035年の間に追加で527,700戸のアフォーダブル住宅が建設可能になるとのことです。


PAB条件緩和で建設スピードも向上?

中でも注目されているのが、PAB(Private Activity Bond)ファイナンステストの緩和です。従来はプロジェクトの50%以上がPABで資金調達される必要がありましたが、それが25%に引き下げられる案が出ています。

これにより、開発許可や資金調達にかかる時間が2年近く短縮される可能性があると指摘されています。これは、住宅建設においてスピードが重要な今日において、大きな意味を持つ変化です。


一方でHUD予算33億ドル削減案に広がる不安

前向きなLIHTC拡充の一方で、HUD(住宅都市開発省)に対する33億ドルの大幅予算削減案が同時に検討されていることに、業界は大きな懸念を抱いています。

特に削減対象となるのが:

  • セクション8住宅バウチャー(賃貸補助)
  • 公営住宅の予算
  • 高齢者・障がい者向け住宅補助
  • HOME投資パートナーシッププログラム
  • 地域開発ブロック補助金(CDBG)

NLIHC(全米低所得者向け住宅連合)の会長レネー・ウィリス氏は、「この予算案は、1,000万人以上の低所得世帯の安定を脅かす」と強く非難しています。


LIHTC拡充だけでは足りない理由

業界では、LIHTC単体では住宅不足を解決するには不十分との声もあります。BWE社のキルロウ副社長は、「税控除の枠が広がれば、クレジットの価値が下がる。結果として開発業者は追加の資金調達を余儀なくされる」と語っています。

また、連邦補助金が削減された場合、多くのプロジェクトは州や地方政府に頼るしかなくなり、地域間での格差が拡大する懸念もあります。


本当に求められるのは「バランスある制度設計」

今回の提案は、一方で推進しながら、他方で削減するという“矛盾”をはらんでいる点が問題です。LIHTCのようなインセンティブ制度と、HUDのような直接的な家賃支援の両輪が揃ってこそ、住宅政策は効果を発揮します。

現に、アメリカ全体では710万戸以上のアフォーダブル住宅が不足しているとされ、極度に低所得な世帯にとっては、支援制度なしには住まいの確保すら困難です。


まとめ:住宅危機は「予算配分」で左右される

住宅問題は、私たちの生活と直結しています。特にここハワイでは、所得と家賃のギャップが大きく、誰もが「明日は我が身」と感じざるを得ません。

今回の議論は、単なる予算案ではなく、人々の暮らしを守るための選択そのものです。テクノロジーの進化と同じように、社会的基盤の整備にも継続的な投資と制度設計が必要だと、私は強く感じました。

今後の議会の動きに注目しながら、私たち一人ひとりが声を上げていくことも大切ではないでしょうか。

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