「配慮を求めること」が難しいと感じる空気に、胸が痛む
私が働くオフィスでも、リモート勤務の調整や業務上の配慮を巡って、社員一人ひとりの事情にどれだけ寄り添えるかが話題になることがあります。とくに最近はADHDや自閉スペクトラム症、ディスレクシア(読字障害)など、見た目では分からない“神経多様性(Neurodiversity)”を持つ人への配慮についても、関心が高まっているように感じます。
しかし、最新の調査によると、職場で障がいや神経多様性に基づく配慮を求めることに対する「スティグマ(偏見)」がむしろ強まっているという事実が明らかになりました。この傾向が続けば、安心して働ける職場環境を作るための本質的な取り組みがますます困難になるかもしれません。
今回は、その調査結果と背景、企業や私たち個人に求められる姿勢について紹介します。
7割の働き手が「配慮を求めにくくなった」と実感
非営利団体Understood.orgが後援し、The Harris Pollが実施した「Neurodiversity at Work Survey(神経多様性と職場に関する調査)」によると、アメリカの労働者の70%が『障がいに対する職場の配慮を求めることにスティグマがある』と感じていることが分かりました。
これは2024年の60%から10ポイントの上昇。企業のDEI(多様性・公平性・包摂性)方針の後退が影響しているとも考えられます。
“マスキング”が生む精神的疲労
同調査では、77%が「神経多様性を持つ人は職場で行動を隠している(=マスキング)」と感じていると回答しました。
たとえば、ADHDの人が「落ち着きがないと思われたくない」と自分の行動を抑えたり、自閉スペクトラム症の人がコミュニケーションにおいて無理を重ねたりすることがあります。Understood.orgの人材文化責任者デブ・ウィルソン氏は、「マスキングは精神的に非常に消耗し、本当に必要な支援を求める妨げにもなる」と警鐘を鳴らしています。
実際の職場対応は?配慮が受けられるのは約56%
- 配慮を申し出た人のうち、実際に受けられた人は56%
- しかし64%は「障がいを明かすと不利益を受けそう」と感じている
- 53%は「会社の神経多様性ポリシーは表面的」と疑念
加えて、**神経多様性を自認する社員の68%が「自分がどんな配慮を受けられるか分からない」**と回答しており、**51%は「誰に相談すればよいかすら分からない」**という現状があります。
離職への不安も拡大、特に神経多様性のある社員
- 神経多様性を持つと自認している人の67%が「仕事を辞めるのが怖い」と回答
- これは、そうでない人の51%よりも大きな差です
これは、転職先でも同じように配慮が受けられるかという不安が背景にあります。神経多様性を持つ人たちは「雇用の継続性」においても心理的な負担を抱えています。
DEIポリシーの見直しが企業側にも影響
法律事務所Littlerによる別調査では、企業の85%が「多様性ポリシーの変更がビジネスに影響を与える」と回答。加えて、
- DEI関連の訴訟を懸念している企業は45%(前年の24%から急増)
- 55%の企業がDEIポリシーの「変更を検討中」
このように、法的リスクや社会情勢の変化に対応しようとする一方で、現場レベルでは神経多様性を持つ社員への支援が後回しになる懸念があります。
企業がとるべき行動は?
Understood.orgの共同代表ネイサン・フリードマン氏は、「職場が神経多様性に配慮して設計されることで、協力体制・生産性・問題解決力のすべてが向上する」と述べています。
そのためには、以下のような取り組みが必要です:
- 明確でわかりやすい配慮制度の整備
- 社員とマネージャーへの教育
- 匿名で相談できる窓口の設置
- スティグマをなくす企業文化の醸成
まとめ:声を上げやすい職場環境づくりが急務
私自身、企業に勤める立場として、同僚や部下が安心して「ちょっとした配慮」を求められる雰囲気づくりがいかに大切かを改めて感じました。障がいや神経多様性は“目に見えない違い”でありながら、職場での働きやすさに直結する重要な要素です。
多様性が本当に意味を持つ職場とは、ポリシーの有無ではなく、「実際に配慮が届いているか」が問われるべき時代に入っているのだと思います。
出典:
- The Harris Poll “Neurodiversity at Work Survey” (2025年版)
- Understood.org 公式声明
- Littler Annual Employer Survey 2025
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