ホテル業界が“静かに冷え込み始めている”と感じた瞬間
ホノルルで生活していると、観光が街の鼓動であることを日々実感します。街を歩けばスーツケースを引く観光客が行き交い、ホテルやリゾートからは楽しげな笑い声が聞こえてくる。けれど、最近少しだけ、様子が変わってきたようにも思えます。
パンデミックが終息してから続いていた“旅行バブル”が、ついに終わりを迎えつつあるのではないか。そんな兆しが、アメリカ本土を中心にホテル業界全体を包み始めています。
根本にあるのは「不確実性」です。経済の先行きに対する不安、急変する関税政策、金利の上昇、そして慎重になった消費者。こうした要因が重なり合い、ホテル業界にとっては“新たな戦い”が始まったと言えるでしょう。
旅行は「様子見」へ──慎重になる消費者心理
CoStar Groupのホスピタリティ分析責任者ジャン・フレイタグ氏は、こう語ります。
「不確実性は消費行動の停滞を生む」
この言葉が、現在の旅行市場の空気を如実に物語っています。経済がどこへ向かうか予測がつかない中、レジャー旅行は“必需品ではない”ため、後回しにされやすいのです。
実際、2025年春以降、ホテル宿泊需要は伸び悩み始めています。航空各社はフライトスケジュールを見直し、ホテル予約の主要指標もソフトな動きに。4月の全米ホテル稼働率は59.8%(前年比0.3ポイント減)。5月上旬の稼働率も前年とほぼ横ばいでした。
客室単価は微増も、インフレに追いつかず
ホテル業界にとって気がかりなのが、「稼働率が下がらなくても収益が増えていない」という現象です。
- 平均客室単価(ADR):前年同月比+1.3%
- しかしインフレ率はこれを上回る
つまり、コストは上昇しているのに、売上は実質的に目減りしているということ。ホテルオーナーにとっては“収支が圧迫されている”厳しい状況です。
さらに、2025年には全米で9,570億ドル相当の商業不動産ローンが満期を迎える見込み。これにより、業績不振のホテルオーナーは資金繰りに行き詰まるリスクも高まっています。
関税と金利が再開発・改装にも打撃
ホテル業界が抱える構造的な課題の一つが、「部材の多くが海外依存」である点です。
- カーペット → インドネシア
- ベッド → 中国
- テレビ → 台湾
このように、関税の影響を受けやすい構造となっており、改装費や新規建設費は今後さらに上昇する可能性があります。
また、高金利の影響で新規ホテル建設のペースも鈍化。2024年初頭まで15万~16万室/月だった建設中ホテル数は、2025年5月時点で約14.1万室へ減少しています。
フレイタグ氏は次のように述べています。
「計画と資金は整っていても、“今は着工しない方が良い”という判断が増えている」
経済指標と消費者心理のギャップ
一方、消費者の経済認識にもブレが生じています。
- Business Journalsの調査では、46都市中27都市で楽観的な経済見通し
- しかし、関税発表や株価変動後に指数は下落
実際、2025年初に101.2あった全米消費者信頼感指数(MCSI)は、4月には94.8まで低下。中小企業経営者の間でも、年初には見られた楽観ムードが一転、慎重な姿勢が強まっています。
ホテル業界はどこへ向かうのか?
ホテル業界は、コロナ禍で深刻な打撃を受け、やっと回復の兆しを見せていた矢先に再び難題に直面しています。
しかし今回の課題は、「外的要因に起因する一過性の問題」ではなく、構造的かつ継続的な変化です。
- レジャー旅行の需要が“衝動型”から“慎重型”へ
- 建設・改装コストの恒常的な上昇
- 消費者心理の変化と価格感度の高まり
- 金融環境の不安定化
これらすべてを総合的に見据えた戦略が、今後のホテル運営には求められるでしょう。
まとめ:ハワイの観光も“再設計”の時期かもしれない
私が暮らすハワイも、観光立国としてこの流れと無関係ではいられません。特にホテルに頼る経済構造の中で、今後の来島者の心理やニーズの変化にいかに寄り添うかが大きな鍵となります。
華やかだったパンデミック後の旅行ブームが静かに終わりを迎える今、ホテル業界は「価格」ではなく「価値」で勝負する時代へと突入しています。
出典
- CoStar Group / STRデータ(2025年5月)
- Moody’s Ratings不動産ローンデータ
- Business Journals MCSIレポート
- Morning Consultウェビナー(2025年3月)
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