8億ドルの米海軍契約でハワイ建設業界に追い風

ハワイ経済の底力を支える軍事関連投資の現実

ホノルルで暮らす私にとって、日常の風景に軍の存在は欠かせません。軍関係者の姿を見かけるのはもちろん、軍用施設や軍関連の工事も珍しくありません。今回発表された米海軍による総額80億ドル(約1.2兆円)の大型建設契約は、そんな軍の存在がハワイ経済にもたらす影響力の大きさをあらためて感じさせるニュースでした。

この契約は今後8年間にわたって、ハワイおよび太平洋地域(ウェーク島を含む)における海軍施設の建設・修繕・解体・設計などを対象としたもの。特に注目すべきは、ハワイに本拠地を置く大手ゼネコン5社が選定されたこと。これは、ハワイの建設業界にとって大きなチャンスであると同時に、地域経済を安定させる「軍事需要」の継続を裏付けるものでもあります。

私が働くIT業界とは異なりますが、地域経済全体に目を向ければ、このような長期かつ大型の公共投資は、地元企業の雇用と収益の安定に直結します。とりわけインフラや建設業に従事する知人たちにとって、軍関連の仕事は不況にも強く、計画的に仕事が回せるという点で非常に重要だとよく耳にします。

この記事では、具体的な契約内容や選定された企業、今後の見通しなどを詳しくご紹介し、ハワイの「見えにくい経済エンジン」としての軍事支出について掘り下げていきます。





契約の概要:8年間で80億ドルの枠組み

このたび米国防総省(DoD)が発表したのは、Indefinite Delivery-Indefinite Quantity(IDIQ)契約と呼ばれるもので、あらかじめ最大予算枠を定めた上で、必要に応じてプロジェクト単位で発注(タスクオーダー)を行う形式です。

  • 契約期間:2025年~2033年6月までの8年間
  • 契約総額:最大80億ドル(約1.2兆円)
  • 対象地域:ハワイ州およびウェーク島
  • 対象業務:海軍施設の設計、建設、修繕、解体など

これは2022年に発表された類似の契約(約9.95億ドル)に続くものであり、ハワイが戦略的軍事拠点として位置づけられていることを再確認させる内容です。


地元企業の活躍が期待される

この契約で選ばれた11社のうち、5社はハワイに拠点を置く企業です:

  • Hawaiian Dredging Construction Co. Inc.
  • Hensel Phelps Construction Co.
  • Kiewit Infrastructure West Co.
  • Nan Inc.
  • Nordic PCL Construction Inc.

これらの企業は、これまでの防衛関連工事でも実績を重ねてきました。例えば、Nan Inc.は2022年の契約でも1億ドル近くの業務を受注しており、信頼と実力を兼ね備えた地元のリーダー的存在です。

また、設計を手がけるBaldridge & Associates Structural Engineering(BASE)によれば、同社の業務の約3分の1が防衛関連で構成されており、軍との契約は経済不安時でも安定収益を生む重要な柱だといいます。


太平洋戦略とハワイの役割

現在、アメリカの外交政策は中国を念頭に置いたインド太平洋戦略に注力しています。ハワイはその中心に位置しており、地政学的にも軍事的にも重要な役割を担っています。

ウェーク島への対応を含む今回の契約は、その現れと言えるでしょう。ウェーク島はハワイから約2,000マイル西にある小さな環礁ですが、戦略的な中継基地としての機能を持ち、過去の戦争でも重要な役割を果たしてきました。


地元経済への波及効果

こうした大規模な契約がハワイにもたらすのは、単なる建設業界の活性化にとどまりません。以下のような波及効果が期待されます:

  • 地元雇用の創出:現場作業員だけでなく、設計、事務、IT、物流など多岐にわたる
  • 関連産業の成長:資材供給、飲食、宿泊など周辺業界にも恩恵
  • 若手技術者の育成:長期プロジェクトによるスキル向上の機会
  • 税収の増加:法人税・所得税・消費税など

特にハワイのように観光業に依存している地域にとって、防衛産業のような外的要因に左右されにくい安定した支出源は極めて貴重です。


今後の展望と課題

ただし、防衛関連投資が増えることには課題もあります。軍事インフラが増加することで、一般市民の生活圏への影響や環境問題への懸念も生まれます。加えて、公共事業に偏ることで他産業とのバランスを失うリスクも存在します。

それでも、ハワイにとってこのような契約がもたらすメリットは非常に大きく、観光と軍事という二本柱が共存する持続可能な経済構造を支えるためには不可欠な存在だと私は考えています。

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