飲食店経営における「テクノロジー必須時代」の到来
私がホノルルで生活し、日々ローカルのレストランを利用する中で感じるのは、「外食産業もここまで変わったのか」という驚きです。注文がタブレットで完結したり、スタッフの代わりにロボットが料理を運んでくれたりと、つい数年前までは考えられなかったことが当たり前になりつつあります。
今回、ハワイ・レストラン協会の会長であるシェリル・マツオカ氏の言葉に触れて、「飲食店にとってテクノロジーの導入はもはや選択ではなく、生き残るための必須条件だ」という現実を、改めて突きつけられた思いがしました。
とりわけ、原材料費や光熱費、人件費といったコストが上昇を続ける中で、ITを駆使していかに効率化・最適化を図るかは、企業規模の大小を問わず重要なテーマになっています。私自身も地元の飲食店オーナーと話す機会があるのですが、売上管理や人員配置をデータに基づいて行っている例も増えています。
とはいえ、導入が容易な店舗ばかりではないという課題も現実に存在します。家族経営の小規模店や、接客に重きを置く高級レストランにとっては、一律的なデジタル化が難しいのも事実です。
それでも、「良い顧客体験を提供する」という飲食業の本質を守りながら、どこにどのようなテクノロジーを導入するかを取捨選択することが、今後ますます重要になってくるでしょう。
コスト削減の鍵は「データ活用」
ハワイ・レストラン協会のマツオカ氏は、テクノロジー導入による最も大きな効果の一つとして在庫管理の最適化を挙げています。多くのレストランが在庫追跡ソフトウェアを導入しており、商品の売れ行きをリアルタイムで把握できることで、過剰在庫や食品廃棄の削減が可能となっています。
このソフトは単なる在庫管理にとどまらず、売れ筋商品や気象条件との相関といった高度な販売分析も行えます。たとえば、「雨の日にはカレーの注文が増える」といったパターンを把握することで、仕入れやプロモーション戦略にも活用できます。
さらに、同様のデータ活用はスタッフのシフト管理にも応用されています。時間帯別の来店客数の傾向から、人員を最適に配置することで、人件費の無駄を削減しながらもサービスの質を保つことができるのです。
自動化の波がレストランにも
予約、注文、会計といった業務の自動化も、近年の大きなトレンドです。
多くのレストランが「OpenTable」のような予約プラットフォームを活用し、店内でもQRコードやタブレットでの注文・決済を導入しています。
例えば、お客様自身がタブレットで注文することで、オーダーミスが減り、スタッフの作業負担も軽減されます。
マツオカ氏も、「マヨネーズ多め」や「トマト抜き」といった細かな要望がより正確に伝わることで、顧客満足度の向上にもつながっていると指摘しています。
また、ロボットの導入も一部で始まっており、Genki Sushi や Ruby Tuesday といったレストランでは、料理の配膳や下膳などを担当するロボットが活躍しています。これにより、もともとバッサー(皿下げ係)をしていた従業員が、キッチン補助やフロント業務などより付加価値の高い仕事にシフトすることが可能になります。
導入の難しさと業態の違い
ただし、すべてのレストランが同じようにテクノロジーを導入できるわけではありません。
特に小規模な家族経営のレストランでは、IT機器の導入や管理のリソースが不足していることも多く、在庫管理の電子化ですら困難な場合もあります。
また、ファストフードやファストカジュアル業態では効率化が重視されるため、テクノロジーとの相性が良い反面、高級レストランやフルサービスのダイニングでは、「人による接客」が体験の一部であるため、デジタル化の導入には慎重になる必要があります。
マツオカ氏は「フルサービスのレストランでは、iPadで注文を取るような形にはなりません。そこには人とのつながり、ホスピタリティがあるからです」と語っています。
本質は「顧客体験」の向上
業態や規模にかかわらず、マツオカ氏が強調するのは「顧客サービスの質を保つことが何より重要」という点です。
どれだけテクノロジーを導入しても、そこに心が通った接客がなければ、リピーターを生み出すことはできません。
つまり、テクノロジーはあくまで「支援ツール」であり、「主役」ではないという立ち位置を明確に持つことが、今後のレストラン経営には不可欠です。
私たち利用者にとっても、テクノロジーがもたらす利便性と、人の温かさのバランスを見極めながら、これからの外食体験を楽しんでいきたいものです。
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